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2021

先輩風を吹かさないことが創造性の高い議論につながる!?

1.創造力を発揮するグループワークの機会「MONO-COTO INNOVATION」とは?

(前置きなので既に本コンテストを知っている方は次章へ)

弊社は毎年夏に全国の中高生が創造力を競い合うコンテスト「MONO-COTO INNOVATION」を開催しています。 既にご存知の方もいるかと思いますが、本コンテストは中学1年生~高校3年生(ないしはその学年に相当する年齢)であれば無料でエントリー/参加が出来るコンテスト(本選は100~200名程度の規模で実施)であり、与えられたテーマ課題に対して、4人1チームとなって4日間(各日の間に1週間程度時間があるため、実質3週間)チャレンジする内容です。このようなコンテストを通じて弊社は全国の中高生が新たなモノやコトを生み出すことに興味を持ってもらいたいと思っています。

MONO-COTO INNOVATION 2021のスケジュール
※2019年まではリアルで開催し、2020年・2021年はコロナの影響よりすべてオンラインで開催しました。2022年はリアルとオンラインのハイブリッドを検討中です。

このコンテストの特徴は主に3つあります。

デザイン思考をベースに考える内容となっていること
(コンテストの事前及び初日にレクチャーあり)
地域や学校関係なく個人で申し込みが可能であり、無料で参加可能なこと
(機会の平等を目指して実施)
●学校の異なるチームメンバーで取り組むこと
(同じ学校の生徒が同じチームにならないように事務局がランダムでチーム編成)


1点目ですが弊社は新しいモノやコトを生み出す考え方の1つとしてデザイン思考を重視しており、コンテスト初日に1日かけてデザイン思考の基本的な考えを学ぶセッションがあります。

デザイン思考の流れ

1日かけてインプットセッションを実施する背景として、参加する中高生の中にはデザイン思考を知らない人もたくさんおり、参加者間で新しいモノやコトを考える共通言語(本コンテストではデザイン思考)が存在しない中でのグループワークは成立しないと考えているからです。そのため最低限のプロセスを1日のセッションで理解できるようにしています。

2点目の地域や学校関係なく個人で参加が可能な点について。創造力は全員が何かしら有していますが、その創造力を発揮する機会が学校、地域や家庭環境によって大きく左右されます。そのため誰でも参加出来るように、学校単位ではなく個人の申し込み、かつ参加費用は無料としています。
※弊社のビジネスモデルは別にあるため、本コンテストは非営利に近い形となっています。ただし、各チームに1人の1~2年間の研修を受けたファシリテーター大学生を配置し、かつ専門分野のメンターを招聘するなど、コンテストでありながらもプログラムとしても一定以上の質を担保しています。

3点目の学校が異なるメンバーによるチーム組成ですが、これは過去の反省から重視しています。本コンテストは2015年から実施していますが、当初はチームメンバーも参加者が自由に決めてよい形を取っていました。すると、1/3ぐらいのチームは同じ学校の生徒同士でチームを組成します。

グループワークの様子を観察すると、最初は同じ学校の生徒同士なのでお互いに話がしやすく、議論も進みやすいのですがコンテストの後半になるとチームメンバーが持っている思考の視点が似ているため、アイデアがジャンプしづらく失速するチームが多く見られました。

一方、学校が異なるメンバーによるチームは、最初はお互い初対面なので緊張しつつ、議論も少しずつ進んでいくのですが後半になるとそのあたりも打ち解け、むしろ異なる視点を持ち込んだ議論となるためアイデアにジャンプが生まれるチームが多くなりました。これらの反省から本コンテストは学校が異なるメンバーとなるように、チームを事務局がランダムで組成しています。

2.創造性の高いアウトプットを生み出したチームとそうではないチームの違いは「学年差」

創造性の高いアイデアを生み出していたチームに共通していたのは「学年差がある」ということでした。

本コンテストはあくまで創造性の高いアイデアを考え、競い合うことが目的であるため、なるべく各チームの創造力が最大に引き出されるよう、毎年創造性に関するデータ分析、仮説検証を行っています。

ちなみに本コンテストの審査基準は下記のとおりです。

1.問題・アイデアのユニークさ(注目した問題や考えたアイデアに独創性があるか)
2.問題・アイデアの確からしさ(注目した問題が本当にあるのか、考えたアイデアが本当に有効か)
3.(最終審査のみ)社会的インパクト


本コンテストはDay3~Day4の間に中間審査があり、上記の①、②についてのみ審査し、各テーマ上位4チーム(全体の約3割)を選出します。

社内でデザイン思考について造詣が深い複数の社員が中間審査を実施するため、大きく評価が偏ることはありません(とはいえ定量的に判断が出来ないものであるため、どうしても審査としての正しさを100%保証するものではないです)。また中間審査を通過した各テーマ4チームに対して外部の審査員(テーマに関する専門家、デザイナー、投資家)がDay4に最終審査を行います。

そこで今回の本コンテストで中間審査を通過したチームを「創造性が高いアウトプットを出したチーム」と定義した時に、どのような変数と相関があるかをラフに分析したところ、創造性が高いアウトプットを出したチームと相関が高かった変数は以下の通りとなりました。

①学年差(0.41)
②1つのプロトタイプに対するテスト(試行)回数(0.41)
③制作したプロトタイプの個数(-0.29)
④メンタリング回数・Day3におけるメンタリングの実施(0.24)
⑤テスト(試行)回数(0.23)

(カッコ内は相関係数。相関係数は1~-1の値を取り、1に近ければ正の相関、-1に近ければ負の相関があります。また相関係数の絶対値が0.2~0.4以下であれば低い相関があり、0.4~0.7以下であれば相関あり、0.7~1.0であれば高い相関があると言われます。)

①の学年差についてですが、本コンテストでは最大で4学年差(高校3年生-中学2年生)が生まれています(チームメンバー全員が同じ学年というチームは1つもなく、最小で1学年差でした)。一般的な感覚からすると、学年差が大きくなると語彙力の違いやメタ認知能力の違い等から相当にグループワークが困難になるため、創造力の高いアウトプットを生み出すことが難しいと思ってしまいます。
(②~⑤について触れていきたいのですが、今回のレポートで触れたいところは①の学年差についてなので②~⑤は別の機会にレポートにまとめます)

どうして学年差が大きいチームの方が中間審査を通過したのでしょうか。 数字の分析だけではこの因果関係が分からないので、「中間審査を通過した学年差が大きいチーム」と「中間審査を通過しなかった学年差が大きいチーム」の議論の様子を観察・定性的に分析しました(オンライン実施だったので各チームの議論の様子がある程度動画で保存されています。便利ですね)。

3.フラットな議論を促すための「リーダーの無知の知」

議論の様子を観察すると中間審査を通過したチームの中で共通することが見えてきました。

特徴①   学年が上の人が比較的リーダー的役割を担っている。(リーダーシップの発揮)
特徴②   リーダーではない人が遠慮なく質問や意見を述べている。(フォロワーシップの発揮)
特徴③   リーダー的役割を担っている人の意見でのみ意思決定はされず、ある程度の合意を取って意思決定が行われる。


特徴①は想像通りで、やはり学年が上の人の方が会話量は多く、また論点出しも多く行っており、チーム内の議論の土台を作っていました。4人メンバーの内、1人もしくは2人の会話が7~8割といった状態です。そのため自然とその1人もしくは2人がチーム内のリーダー的役割を担う形になっています。
(ただ誤解がないようにすると、年上であるからリーダーということが良いという訳ではないです。あくまで役割として年上がリーダー的な役割を担いやすいというだけであり、本来は年齢に関係なくリーダーシップを発揮することが得意な人がリーダーとなれば良いと考えています)

特徴②についてですが、チームがワントップもしくはツートップ体制となっていたとしても学年が低い他のメンバーは孤立しているわけではなく、議論にはしっかり参加しており必要に応じて意見を求められなくても自ら意見を述べ、不明確な点があれば質問をするなど、フォロワーとして前向きに取り組んでいました

特徴③はそのリーダー的役割を担っている人の独断でチームの意思決定を行うのではなく、他メンバーの合意を得た上で意思決定を行っていました。ただ完全な多数決やメンバー全員が120%納得するまで議論をして…という訳ではなく、ある程度他メンバーの意見を踏まえた上でリーダーが主導的に意思決定をするという形です。その結果、無駄に時間をかけずにとりあえずの結論を出し、チームとして前に進んでいきます。

ではどうして中間審査を通過したチームにこれらの特徴があるのでしょうか。

これらの特徴の根底には「フラットな議論を行う場」があると考えられます。

リーダーシップ、フォロワーシップといった役割はあるものの、誰の意見も平等であり、良い意見であれば取り入れるという空気がそれぞれのチームで生まれていました。だからこそ学年が下のメンバーであっても遠慮なく意見は言いますし、その意見によって議論に多様な観点が付け加わり、議論の質が高まります。

ただこのフラットな議論を行う場を生み出すさらなる要因として、「リーダーの無知の知」が大きく影響を与えていることが分かりました。 前述のチームの中でリーダーシップを発揮する人の語尾に注目すると「……かも。」や、「分かんないけどね。」といった言葉が端々に出てきます。リーダーシップを発揮する人自信も正解が分からないこと、自分の意見もあくまで一意見であることを自然と他メンバーに伝えていることになり、そのリーダーの無知の知によってフラットな議論を行う場が生まれているのではないかと考えられます。


一方、中間審査を通過できなかった学年差の大きいチームの議論を観察すると、過去に本コンテストに参加したことがある年長者がリーダー的な役割を担っており、「俺(私)知ってるぜ!」とか「このコンテストはこういうポイントを押さえないとダメなんだよ」と先輩風を吹きがちでした。そして先輩風を吹かすリーダーの考えに沿った議論が展開され、結果として創造性の低いアウトプットになっていったのかと思われます。

4.学校において創造性の高いグループワークを実現するには?

グループで議論を行う本来の意味は、1人では解決出来ないことに対して多様な視点・力を集めることで創造性の高い答えを創ることにあります。

そのため学校で創造性の高いグループワークを行うのであれば、なるべくリーダーシップ、フォロワーシップが発揮しやすい環境(例えば異学年を組み合わせたグループ等)を構築しつつ、年上だから、リーダーだからといって先輩風を吹かさないことをしっかりと認識してもらった上で取り組むのはどうでしょうか。

そしてこれらのグループワークは失敗することを前提とするのが大切です。

ついつい先輩風を吹かせてしまったシーンなど、上手くいかなかったことを後に振り返ることで、フラットな議論の場を生み出す重要性や難しさに気がつくことが出来ます。そしてその気づきが創造性の高いグループワークにおける学び(≒社会に出たときに必要なグループワークにおける学び)になるのではないでしょうか。

大人である私達も先輩風を吹きすぎないよう、気をつけたいですね。